SCOOP!

2016.10.09 15:00

 

 普段は追われる立場の福山雅治が、追う立場=パパラッチ役になる!みたいな売り文句だったと記憶している。福山雅治に下品なパパラッチの役なんて出来るのか、結局スタイリッシュにかっこよくなっちゃうんじゃないのかと疑問だったが、結構しっかりと下品でエロくて汚いおっさんになっていて良かった。やっぱりちょっとかっこよかったけどそれは仕方がないと思う。

 舞台は東京。猥雑で、カラフルで、憧れと挫折の煮凝りみたいな都市だ。全編通してずっと少しずつ下品、感情的で、好き嫌いの分かれそうな映画だと思いながら見ていた。大人向け(感情を無理くり揺さぶられることにある程度慣れている人向け)なんだろうなと思う。

 

 落ちぶれたパパラッチの都城静(福山雅治)は、本当はファッション誌で仕事がしたかった行川野火(二階堂ふみ)の教育係を任される。最初は嫌々同行するものの、芸能スクープというものの下世話な高揚感や陶酔感に次第に夢中になっていく野火。彼女が二度吐く「この仕事最低ですね」というセリフは、前者と後者ではまったく異なる意味を持っている。

 

 パパラッチの仕事を一緒にやっていくうちに静と野火はなんとなくいい関係になってしまう。貞操観念などないに等しい静(一番冒頭のシーンがセフレとのカーセックスだからね)と、若くて良くも悪くも不安定な野火がそういう感じになるのは必然なんだろうなと思う。

 野火の無鉄砲な根性に静も感化され、同時にいい雰囲気に……なったところで、副編集長の定子(吉田羊)が部屋にやって来る。そこで、二人は元夫婦であったことが明かされる。どうやらもう離婚済みなのだが、静の部屋に食事を作りに行く程度には関係が続いているようである。気まずさに静の部屋を飛び出す野火をベランダから見下ろしながら、静と定子のキスシーン。アドリブだったらしいけど、この描写いる?と首を傾げる。

 定子は静と野火がキスしかけているところに出くわしており、二人のただならぬ様子は目撃している。それを踏まえて、「ちょうどよかった。手伝って」と野火に呼びかける。ここからは定子と静に性的な関係があろうとなかろうと、お互いにオンリーワンではないですよ、というスタンスが見えると思う。静が他の誰かとセックスしようが心痛めたりしませんよ、というスタンス。だけど、その時キスできなかった野火を見送りながら、その相手である静とキスをする(しかも愛情を感じるキス)、というのは、普通に考えたら定子の嫉妬心や独占欲の描写ということになってしまうんじゃないか? 別の解釈をすれば、定子自身も性に奔放であるとか、それだけ二人の関係が揺るがないものであるとか考えられるけど、腑に落ちない。

 野火と静のラブシーンもなんだか。直接的なセリフや描写はなく、朝日が白く照らしていて、スローモーションで。不潔で下品で色んな事を諦めている男・静と、素朴で好奇心旺盛だが憧れには遠く及ばなかったちょっとダサイ女の子・野火のセックスなのに、そんなに綺麗に撮っちゃっていいのかよと。そんな「二人は結ばれた」みたいな描写でいいのかよ。もっと生活感を出してほしいよ。静がちゃんと服を脱いでたのも、野火がブラジャー付けたままだったのもよく分からないよ。

 なんかわざとらしい。エロが全部わざとらしい。こういう映画ならもっと汚くていい。ただのサービスカットだった。

 

 取材のシーンは凄くリアルで、ロケ地も本当に芸能人が出没するスポットを選んでいるらしいし、しっかり顔を撮るために花火や別の何かで注意を引くとか、あえて挑発するとか、そういったアイディアも全て実在するテクニックなのだそうだ。

 実況検分中の連続殺人犯の顔を独占撮影するために、馬場(滝藤賢一)が奮闘するギャグ展開などはハラハラしつつも楽しかったし、普段はグラビアでページ数を稼いで食い繋いでいるSCOOP!編集部が、一つにまとまって協働する図は熱くなる。

 

 リリー・フランキーの怪演も凄かった。リリーさんはヤバイ人の役をさせたら天下一品ですね。ヤク中の情報屋・チャラ源を演じていて、静とは知己の仲。スウェットはよれよれ、髪ボサボサ、常にヘラヘラ笑っている。しかし、野火の存在によって静が希望を見出していくのに対し、情報屋に落ちぶれて妻子にも捨てられているチャラ源はそのままどんどん沈んでいく。団地の階段でのシーンは象徴的で、静は階段を上り、チャラ源は下り、それぞれの住処へ帰っていく。

 このチャラ源の終盤の狂いっぷりは、本当に恐怖を感じた。薬の過剰摂取で狂ってしまったチャラ源は、腹立ち紛れに妻とその交際相手を射殺し、娘を人質にとり大騒ぎを起こす。自分の勇姿を撮ってくれと呼び出された静は、愛用の一眼レフではなく、自分にとって宝物であるライカを持ってチャラ源を説得しに向かう。この時点で、静はチャラ源と共倒れする気だったのだと思われる。

 騒ぎを聞きつけてやって来た野火が物陰からカメラを構える姿に、チャラ源は静以外に撮らせる気はないと激昂し、発砲する。その瞬間、静は野火に「撮れ」と目配せし、銃口を無理やり自分に向ける。

 静は『崩れ落ちる兵士』を撮ったロバート・キャパに憧れ、カメラマンになっていた。キャパになりたかったが、なれなかったのである。代わりに自分を被写体にすることで、野火をキャパに近付けたかったのだ。と思う。

 

 映画に込められたメッセージが多くて、どれが主題なのかちょっと分からなかった。わたしはこの映画の硬派な部分がとても好きだったし、パパラッチの描写や芸能スクープという下世話な仕事もリアリティーがあって面白かった。でも、それだけに、終盤から急激に硬派側にシフトされたことで、定子や野火との恋愛関係がぼやけてしまったのが引っかかった。

 面白かったけど、感情で両肩を掴んでガタガタ揺すられるような感覚を覚える映画だった。とてもテレビ的で、日本的だなあと思った。